お金を集めた方法と何に使ったか分かる

 

わかりやすいPLと違い、ハードルが少し上がる〔貸借対照表 (BS)〕。

しかし、これもカンタン!

BSが表すことは、ある時点における企業の財政状況。

シーノ・カフェに例えると、200円で仕入れた豆で入れたコーヒーを500円で売り、300円の利益が出た。これがPLから分かることだった。ところが、こだわりの強いシーノさんは開店に際して、店内に置くための海外ブランドのテーブルセットを300万円で購入。しかも、その全額を利子付きの借金で賄っていた。実は、300円の儲けで喜んでいるような余裕は、シーノさんには全くないのだった・・・。BSが教えてくれることは、とどのつまりこういうことである。

 

 

上図を参照しつつ、実際のBSの構造を見てみよう。

初めに押さえるべきは、左側に1つの箱、右側に2つの箱という大きな3つの箱に分かれている点。

左側の1番大きな箱は〔①資産の部〕。ここには、企業が集めてきたお金(資産)が、何にどれだけ投資されているかが書かれている。

右側の2つの箱には、企業がそのお金をどうやって集めてきたのかがそれぞれ書かれている。右上の箱〔②負債の部〕には、銀行など他人から集めた、いつか返さなければならないお金、〔他人資本〕が表されている。そして最後の右下の箱〔③純資産の部〕には、負債の部とは逆に返す必要のないお金〔自己資本〕が書かれている。株主から集めた〔資本金〕や、PLで見た企業が自力で稼いだ当期純利益が〔利益剰余金〕として積み上げられる。

 

資本金の部分について補足すれば、資本金を出している株主は、その企業を所有する権利を小分けした株の所有者だという点。その企業にお金を貸していると訳ではありません。

 

それでは、シーノ・カフェのケースに、それぞれの箱を当てはめてみます。まず、シーノさんが購入したテーブルセットは、300万円の価値がある持ち物として左側の箱(資産の部)に入る。そして、その購入のために背負った借金300万円は〔借入金〕として右側の箱(負債の部)に記載される。次に、コーヒーを売って得た利益300円が、左側の箱(資産の部)には〔現預金〕として入り、右下の箱(純資産の部)には〔利益剰余金〕として入る。

 

ここで注目して欲しいのは、左右それぞれの合計額がいつかなるときもピッタリと一致するということ。つまり、理屈の上では、その企業が全ての〔資産〕を売り払って現金化したとすれば、その金額は、〔負債〕と〔純資産〕の合計金額と同じになる。

 

ところが、貸借対照表をバランスシートと呼ぶ理由について、〔BSの左側の合計額と、右側の合計額が常に一致する、均衡(バランス)が保たれるのでバランスシート〕と覚えている人が意外と多い。確かに、これまでに述べたように左右の箱が常に均衡するという事実自体は間違いではない。しかし、お金に関する場合、balanceという英単語は、ほぼ例外なく〔残高〕という意味で使用される。つまり、バランスシートの正確な和訳は〔残高一覧表〕となる。

 

この訳語をあてると、BSが表すものがよりハッキリと分かる。現金預金の残高がいくらか、固定資産の残高がいくらか・・・、という具合にその企業の持っているもの〔財産〕の残高一覧表だから、英語ではバランスシートと名付けられている。

 

BSを知るには〔5つの箱〕をチェックしよう!

ここまで紹介した箱のうち左側の資産の部と右側の負債の部の箱をそれぞれ2つに分けることで表れる、〔流動資産〕〔固定資産〕〔流動負債〕〔固定負債〕と〔純資産〕の合計5つ。

おのおのの内容に入る前に、
「1年以内に現金化できるモノ=〔流動〕」
「1年以内に現金化できないモノ=〔固定〕」

 

 

 

❶ 流動資産

1年以内に現金化できる資産で、預貯金や有価証券が代表的。
このほか、モノやサービスは提供済みだが、お客様からの入金は先になるというときに、今後現金を受け取る権利である売掛金や受取手形。棚卸し資産(商品や原材料)など。
企業は現金がなければ経営が立ち行かない。支払いや返済、さらには何か不測の事態が起こった際に、すぐに現金化できる資産を多く持っていれば、その企業の安全性は高いと判断できる。

 

❷ 固定資産

1年以内に現金化できない資産で、土地やオフィスビル、工場や機械、子会社の株式など売却して現金に換えることに時間がかかるモノが記される。

 

❸ 流動負債

1年以内に返済や支払期限を迎える負債。
短期借入金や買掛金、支払手形(売掛金、受取手形の逆で、取引先に支払う債務(借金))などが含まれる。流動負債が流動資産より かなり多い場合、「返済や支払いが滞る危険性がある負債」とみることができる。

 

❹ 固定負債

1年より後に返済や支払い期限を迎える負債で、長期借入金や償還予定が1年を超える社債など。

 

❺ 純資産

株主が投資した資本金や、企業がそれまでに稼いだ利益剰余金などで、返済の必要がない会社自身の資金のこと。

 

以上、BSの5つの箱をざっと見てきましたが、続いてBSを見る上でのチェックポイントに移ろう。

まずはBS全体の〔大きさ〕。BSとPLの〔大きさ〕を併せて見ることで、その企業(もしくは業種)が効率の良い経営をしているかどうかが分かる。

全く同じ大きさのPLの企業が2つがあったとして、BSが大きい企業と小さい企業のどちらがより効率的と判断できるだろうか。一般的に言って、より少ない資産でより多くの売り上げと利益を出す企業の方が効率的となる。ただし、業種によりBSとPLの大きさの比率が異なるため、異業種間の企業では、この比較はあまり意味がないことに注意しよう。

 

続いて、5つの箱それぞれの大きさの比率で、ある程度、その企業がどんな商いをしているかも絞込みが可能である。例えば、工場や土地、機械が必要な重厚長大な業種では、流動資産よりも固定資産の箱の方が大きくなる。逆に、EC(インターネット通販)は、同じ小売でも百貨店とは異なり固定資産をあまり必要とせず、流動資産の方が大きい。また、同じ箱の中身にも特徴が出る。流動資産のうち現預金が際立って大きい企業は、小売りや外食など B to C の業界に多い。

 

経営に不可欠な現金を増やす手段がBSから分かる

 

 

BSを基に、経営危機にある企業に不可欠な現預金や有価証券などのキャッシュをどうやれば増やせるのか、その策を考えてみたい。

まずは左側からひねり出す方法。BSでは左右が均衡しており、金額が必ず一致する。その構造から、左側の箱(資産)の中から、土地のようなキャッシュ以外の資産が減少した場合、同じ額のキャッシュが左側で増える。

具体的に言えば、回収を早めることで売掛金を減少されたり、商品在庫の保有量を減らして棚卸し資産を圧縮したり、設備や不動産など形のある固定資産〔有形固定資産〕から不要なものを売却したりすることが、現金の増加につながる。とにかく、左側にある色々なものを現金化するということ。

次に右側をいじってキャッシュをひねり出す方法。右側の箱のうち負債か純資産が増えると、左右が均衡するため、結果的に左側でキャッシュが増える。要するに、右側の箱を大きくして、左側にキャッシュを生ませる。この方法ではBSそのものが大きくなる。

こちらの策としては、増資により資本金や儲けを増やして利益剰余金を積み増やしたり、銀行からの借入金を増額したりして負債を大きくすることが、キャッシュの増加をもたらす。

右側でお金を集めてきて左側にそれを置く。BSの右側はどうやってお金を集めてきたかを表すのだから、当然というば当然。

まとめると、現金以外の資産の項目を精査して、どれかを減らせないか。もしくは、負債や純資産の項目を見て、どれかを増やせないかを考えることが、キャッシュを捻出する策となる。